【完】さつきあめ

朝日の手の力が段々と抜けていって、ゆっくりと離されていく。
それでもあたしの手の中にはその熱い熱が残ったままだった。
わたしを力強く見つめる瞳も、持つ体温の熱さも光とどことなく似ていて、そんな朝日を見ていると、胸が痛くなってくる。

いつの間にか夕陽が空へ落ちていく。

夜になってライトに照らされた夜桜の中、話をかける七色グループのキャストの中で、むすっとした顔をした朝日が中心で座っている。
光はいつも、こんな時笑っていた。誰にでも優しくして、笑っていた。
でも朝日はつまらなさそうな顔で、座っている。
離れても時たまわたしと目が合うと、柔らかな微笑みを落とす。
光と似ているよう一面を持っていながら、全く正反対のところがあるような人。

わたしはずっと、朝日が陽なら、光が陰だと思っていた。
裏と表。でもそれはどちらにでもなり得る可能性をいつも秘めていた。

「さくらー、何浮かない顔してんのよ」

ぼんやりと皆から離れたまんまだった。
そこに綾乃がやってきて、お酒を差し出す。

綾乃は何となく、色々な事を知っているような気がしていたから、ここ数ヵ月の事は話していなかった。
溢れだしてしまったら、光への恨みつらみが止まらない気がしたから。
綾乃が大切だと思う、光の事を綾乃の前でそんな風に言いたくはなかった。