待っていたマンション前に、見慣れた黒い車が止まる。
わたしはすぐに光の車だとわかった。だって毎日一緒に帰ってきたのだから、そんなの間違うはずがない。
車のドアが開いた瞬間、光の匂いがふわりと香る。
あの日、すべてに引き裂かれるまで、わたしはこの香りを独占していたのだから。
「ひか、」
光、と声を掛けようとした瞬間、助手席から笑いながら女の人が降りてきた。
暗くてよく見えなかったけれど、スレンダーで髪の長い女性だった。
どくん、と心臓の音が大きくなったのがわかった。
違う、違うよ…。これは光の車なんかじゃないんだ。
たまたま光と同じ香水を使ってる人が光と同じ車に乗ってるだけなんだ。
そう願い、立っているだけで精一杯だった。
助手席から降りてきた女性はわたしの姿に気づいたのか、再び車のドアを開き、何かを話している。
そして、ゆっくりと運転席のドアが開いた。
すべての世界がスローモーションになってしまったのかと思うくらい、ゆっくりとしたでもはっきりとした時間が流れた。
中から出てきた人を見て、瞬きさえ忘れた。
「さくら!!」
こんな時でも自分で決めた約束を守るんだね。
ふたりきりの時しか名前を呼ばないって、でもそんな光の真面目なところが今は1番嫌だった。
硬直して動けないわたしに、助手席から降りた女性が駆け寄ってきた。
段々視界ははっきりしてきて、その人の顔がはっきりとわかった。
スタイルの良い、綺麗な茶色の髪をなびかせる。わたしよりずっと大人の女性で、とても目立つ容姿をしていた。その容姿を見て、七色グループの女の子じゃないって事はわかった。
こんな綺麗な人だったらグループ内でも話題になっているだろうし、どこの系列の宣材写真でもこの人を見たことがなかった。



