けれど心は空っぽだった。
本当に欲しい物など、この世界には何1つない。
けれど本当に欲しい物がこの手に入らないとわかった時、わたしは簡単にそれを捨てた。

ゴミ箱にゴミをぽいっと投げるように、簡単に捨てた。
やっと楽になれた気がした。


「さくらー、さくらー、」

「んぅ~…」

はっきりとしない意識の中で、誰かに名前をずっと呼ばれている。
ゆっくりと目を開くと、スーツを脱ぎ捨てた高橋が手に水を持ち、心配そうにこちらを見つめている。

だるさが襲う体を無理やり起き上がらせた。

「うー…具合いわる…」

「お疲れさん。水飲め」

高橋の手から水を受け取り、一気に飲み干せば、少しだけ意識がはっきりしてきたように思える。

わたしの横。ソファーにどかりと座り、高橋も水を一気に飲み干す。

「今日はよくやったな、THREEでも2ヵ月でナンバー1おめでとう」

「ありがとう……」

この系列に入ってきた目的は1つだった。
けれど沢山の人々と出会い、沢山の感情に触れて、守りたい物を見つけ、わたしがナンバー1になる理由。勝ち続ける理由は沢山出来た。
でもあの日、その理由は音もなく崩れていった。
この世界に入って、大切だと思ったすべての物が嘘だったかのように。