「初日から遅刻しといて、生意気な事いうのね、さくらだっけ?」
「はぁ…」
「シーズンズとうちでは全然格が違うから、せいぜい恥をかかないように気をつけてね。
それにシーズンズでナンバー1だったからってすぐにうちでもナンバー1になれると思ったら大間違いだから」
どこのお店にいっても、ナンバー1というのは同じ人なのかと思うくらい、気が強くて勝気な人が多い。そしてやっぱり美人も多い。
その時、更衣室の端っこで鏡の前に座っている女の人が立ち上がった。
「今までもギリギリでナンバー1になっていただけのくせに随分強気な事言いますね、凛さん」
立ち上がり、こちらへ歩いてくる女はいい意味で水商売の女の子っぽくない人だった。
凛と負けず劣らずスレンダーで、薄化粧で、長い髪は黒に近い茶色だった。
特別目が大きいわけでもなく、鼻が高いわけでもない、けれど整っている顔立ちは、清楚で品があって、テレビに出てくる女性アナウンサーの誰かに似ていた。
「お前には関係ねぇだろ」
対する凛さんは見た目も派手めで、口調もきつく、水商売を絵に描いたような女だった。
「別に関係はないですけど?
何か面白そうだなーって」
「あん?」
「凄まないでくださいよ、ヤンキー丸出しで怖いですって。
新人いじめも大概にしてくださいよー。そんなんだからこのお店は雰囲気悪いんですって」
その人は怖い、と言いながらも全然怖くなさそうに凜にそう言って、再び鏡の前に座る。
足を組み、片方の手で携帯を弄り、もう片方の手で煙草に火をつけて鼻歌なんか歌っている。
やけに肝の座った女の子だと思った。



