「あとね、奥の卓も見てみなよ。笑っちゃった」

「え?ええええええ?!」

「あれ、さくらの指名ね」

安井の卓で何10分か話した後、抜かれ次に行った席には

ふぅふぅと暑そうに襟元を仰ぎながら、おしぼりで額の汗を拭う。
わたしの顔を見て、すぐに嫌そうな顔をした。

嬉しいサプライズは続く。

「なんだ、お前、今日は一段とブスだな」

「浅井さん…!!」

「はるなに言われてよー、仕方がなくお前のブス面を拝みに来てやったわ」

「はるなさんが…?!」

浅井は、お店に入ったばかりの頃、わたしに嫌味ばかりを言ってきたはるなのお客さんだ。
最初は大嫌いだったけど、ある日のヘルプを境に、はるなを指名しながらもシーズンズではたまにわたしを場内指名してくれるようになった。

はるなとは違う店なので、今は本指名で来てくれたというわけだ。
店は違っても、はるなに後押しをされているような気がした。


「まぁたまにはお前を本指名で飲むのも悪くない」

「浅井さんー!本当にありがとう!」

「なんだお前突然元気になりやがって気持ち悪ぃ奴だな」

浅井の毒舌さえ、今日は優しく聞こえる。
失ったものばかり数えて、得たものを考えていなかった証拠だ。
応援してくれる人がいて、わたしの為に動いてくれる人もいる。離れても見守ってくれている人もいた。
残された物はゼロなんかじゃなかった。