「う………」

自分の情けなさと、浅はかさに思わず涙がこみ上げる。

「俺の前で泣くな!」

「…!」

それは高橋がわたしの担当になった時に言った言葉そのままだった。

「悔しいなら、納得いかないのなら、何度でも立ち上がれ。
どうしようもないって諦める事を考える前に、今自分が何を出来るのか、考えろ!」

高橋の言葉はいつも厳しい。
光のようには決して優しくはない。 それでもどこか説得力があるのだ。
言葉だけで、行動に何も移せていないわたしなんかよりはよっぽど。

「泣くだけ泣いて世の中どうしようもない事もあるって少しはわかったろ。
それなら心切り替えろ。
どれだけ遅刻してもいい。店長にはなんとか言っておくから、絶対にTHREEに出勤しろ」

立ち上がる気力なんかなかった。
それでも温かい蒸しタオルで自分の目を温めて、もう泣かないように何度でも高橋の言葉を思い出した。

心の整理なんかつくはずもない。
それでも待ってくれている人がいる。ただそれだけの事実がわたしの心を動かした。


セットにも入れなかったから髪はストレートのまんまだし、お客さんの連絡も一切返してない。メイクをする手も全然進まないし、食欲だってもちろんない。

それでも何かにとりつかれたように、1時間遅刻して、わたしは初めてTHREEの入り口をくぐった。

入った瞬間、目を覆ったのは鮮やかな赤色だった。