「高橋くん…?」
高橋からの着信は非常に珍しいものだった。
シーズンズの頃ずっとわたしの担当だった彼は、滅多にわたしに電話を掛けない。
お店の嬢が遅刻や欠勤をしないようにするのも担当の黒服の仕事だった。それでもなおも高橋がわたしに連絡を取らないのは、さっきも言った通りわたしが遅刻や無欠勤をしなかったからだ。
誰に何を言われるでもなく、必ずお店に行っていた。
要は信頼されていたということでもある。
その高橋がこのタイミングでわたしに連絡をしてきた。
それに今日からはわたしはTHREE勤務で、シーズンズの黒服の高橋は担当から外れた事になる。
…何故、このタイミングで?
「…もしもし?」
ずっと泣きっぱなしだったからか、声が上手く出ない。
「もしもしさくら?!お前ー!電話すぐ出ろよ!
つぅか何その声、めっちゃガラガラじゃん」
電話口から、高橋の大きな声が響く。
耳が痛くなり、思わず携帯を耳から離す。
「朝からうるさいなぁ…」
「朝って。もう昼の2時過ぎだぞ…?」
「キャバ嬢にとって昼は朝なの!
用事はなに?いま、高橋くんと言い合いする元気もないんだけど…」
「そんなこったろーとは思って電話したんだけどな。
綾乃さんから連絡があったから、電話したんだ」
「綾乃ちゃんから?」