【完】さつきあめ


光の事以外でも考えることは沢山あった。
THREEはシーズンズより単価が少しずつ上がる。それについてきてくれないお客さんがいるのではないか。THREEに移動しても、お客さんはついてきてくれるのか。
そもそもTHREEではナンバー1になる事がわたしには出来るのか。THREEというお店でわたしはやっていけるのか。

それ以前に甘い、と言われ続けた、深海の店長であるシーズンズがわたしは好きであった事も。
沢山の物とお別れしなくてはいけない事実が余計わたしの心を病ませた。

「明日からさくらがいなくなるなんて信じられない…」

はるなは珍しく素直な言葉を口にして、美優は移動を知った日から、いつもより静かになっていた。
最後の日、一生のお別れなんかではないのに、お店は大盛況だった。


お店を出て、ビルの中央にある大きな看板に視線を落とす。
この看板も、明日からは変わってしまうのだろう。
思えば、シーズンズに入って色々な事があった。
光に出会った場所で、沢山の大切な人との出会いがあった。その中で別れもあって、争いあった人たちもいた。
けれど今思っても、全てはここに大切な出会いばかりがあった。

最後の日は営業終わりにお店の黒服やキャストたちと飲みに行った。
全然乗り気ではなかったけれど、はるなは泥酔して、泣きながら「行かないでー」とわたしに抱き着いてきた。

綾乃も参加していたけど、結局最後まで肝心な事は話せなかった。
午前様になり、皆がぽつりぽつり帰り出す頃、皆の流れにのって帰ろうとした時だった。