【完】さつきあめ

目の前の2人が何を言ってるのかわからなかった。
何も聞いてない。勝手に話が進んでいく。
隣にいた深海を見ると、深海は申し訳なさそうに俯いていた。

「ごめんな…さくら…黙ってて」

「何?!前から決まってたってことなの?!
あたし何も聞いてない!」

「さくらちゃーん、聞いてなくてももう決まった事だから。
大体シーズンズであんなに売り上げあげてて、あのままお店にいることはもったいないと思うよ?THREEはシーズンズより敷居の高いキャバクラだし、今の君の実力なら、すぐにでもナンバー1になれると思うよ」

もったいないとか、そういう問題ではない。
わたしはシーズンズが好きなのだ。あそこにいなければ出会えなかった仲間たちや深海の作る店が。そこから離れて違う場所で働くなんて考えもしなかったし、考えたくもなかった。

「でも……」

カシャン、とジッポの良い音が小さな部屋に響く。
朝日が煙草に火をつけ、灰皿に視線を落としてすぐに鋭い瞳でわたしを見る。

「お前が目指すものが、シーズンズにいて叶えられるのか?」

真剣に言ったその言葉に胸がどくんと跳ね上がった。

「仕事に来てる以上、遊びに来てるわけじゃねぇ。
お店には深海がいるとか、仲の良い友達がいるとか、そんななれ合いで仕事しにくるんじゃねぇ…。
シーズンズからTHREEへ上がるって事はお前にとってステップアップって事でもある。お前の実力が認められた証拠だ。何も迷う事はねぇだろ?」

朝日の言う事は最もだった。
わたしはわたしなりの目標があって、このグループにいる。
それならばレベルの高い店に、お店側が自ら行けと言うなら、それは喜ばしい事なんだろう。
けれど……。