【完】さつきあめ

あの、気高きナンバー１のゆりが。
朝日と付き合ってても決して店を辞めない彼女が、まさか朝日と結婚したいほど彼に惚れているなんて。全然想像もつかなかった。
彼女にとって朝日との結婚は、ナンバー１でいることよりも価値のある物なのだろう。

「でも宮沢さんは誰とも結婚する気はないのよ。まぁ独身主義ってやつ」

「へぇ～…そうなんだ…」

「あたしはさくらがお店に入った時から、宮沢さんのタイプだなってすぐにわかったわ。絶対あの人手を出すって。そしてさくらは絶対に宮沢さんの誘いにはのらないって。
でもあの人がここまで本気になるのは予想外だったけどね…」

「宮沢さんはあたしが好きなわけではないと思うよ…
いつか言ってたもん、あたしは宮沢さんが初めて愛した女で、初めて自分を捨てた女に似てるって…」

それはおそらく、この世界にもういないさくらさんの事だったのだろう、と確信していた。
けれど、光はさくらさんの自殺の原因は朝日ではないと言った。
朝日とさくらさんは愛し合ってた。あの朝日が初めて愛したというほどに、なのに何故さくらさんは自殺なんてしてしまったのだろう。

そんな事を考えても仕方がない。男女間のいざこざで死ぬまで追い込まれることがこの世界にあるとわたしは知ってる。

「綾乃ちゃんは…光の事も、宮沢さんの気持ちも、よくわかってるよね…」

わたしの言葉に、綾乃は悲しそうな顔をする。

「自分で、何ひとつ望んでないのにね…」

この時まで、さくらさんの親友だった綾乃だから色々な事を知っていて、理解してるんだとばかりに思ってた。
悲しそうに言った、自分では何ひとつ望んでいないっていう言葉の意味も、全然わかっちゃいなかったんだ。

綾乃がどういう気持ちで、毎日を過ごしていたのかも。