「何か用ですか?」
女の子は、基本的に朝日を恐れている。
社長である光のように毎日お店に顔を出し、女の子にフレンドリーに接するでもなく、自分の気に入ってる女の子以外には冷たい、と評判の朝日の事だ。
けれど、そんな朝日を前にしても、綾乃は物怖じする事は決してない。
「綾乃に用じゃねぇよ」
そう言うと、綾乃の後ろに隠れているわたしの手を強く自分の方へ引き寄せた。
全然違うのに、光と同じ体温を持っているこの男がいつまでたっても苦手でしょうがない。
「ちょっと、やめてよ!」
そう言ったのは、腕を掴まれたわたしではなく、綾乃だった。
「そんな怒るなよ」
女の子から何かを言われればいつも強い態度に出るのに、綾乃への対応は少し弱弱しくも感じられる。そう言えば光にもそんなところがあるような気がした。
「別に何もしねぇって、ちょっと話があるだけだから、すぐ返すから。
ほら、お前は先にあっちに行っておけ」
朝日の視線の先には、もう随分遠くに行ってしまった深海たちの姿がある。
「何かしたら許さない」
「はいはい、わかってるって。おー、怖っ」
「さくら、何かあったらすぐにあたしの携帯に連絡して」
「うん……」
そう言い残すと、朝日をきつく睨み、深海たちの方へ行った。
取り残されたのは、朝日とわたし。非常に気まずい。
クリスマスに浮かれた街で、切り取られたようにわたしたちだけが無表情だった。



