「俺は…どんな時でも、夕陽が望むような有明光でいたかった。
夕陽の前でだけは…」
「え?」
言葉を被せるように、光はわたしの唇へ優しいキスを落とした。
いつかしたキスとは全然違う。
びっくりして瞬きさえ忘れてしまうくらい。
唇を離した後も、優しく微笑みかける。
「いっつも優しくて、困った時助けてくれて、王子様みたいな有明光が夕陽は好きなんだろ?」
「光…?」
「俺は……夕陽が思ってるような人間じゃねぇ……」
途端に光がベッドに顔を埋める。
握られた両手の拳が少しだけ震えていた。
わたしは慌てて起き上がり、光の右手を両手で握りしめた。
「光?あたしは確かに光の事が好きだけど、それだけじゃないよ。
光が今の自分を無理に取り繕って演じてるならそんなん見たくないよ。どんな光でも光は光なんだよ?」
ゆっくりと顔を上げる。
驚いた事に光は泣きそうな顔をしていた。
そんな顔、1度も見たことがなくて、戸惑ってしまったのはわたしの方だった。
握りしめた手を、強く握り返してくる。
向き合った光の視線は、わたしを捉えて離さなかった。
優しく笑う瞳の裏側さえ、あなたを形成する一部なら、全て知りたいとさえ思った。
「俺は、夕陽が好きだ…」



