【完】さつきあめ

グラスも揃い、再び皆で乾杯をする。
居酒屋で皆で飲む安いお酒は、お店で飲むどんな高級なボトルよりもずっと美味しく感じて、緊張感がないせいか、酔うのも早かった。

「だからさぁーあの客がちょーむかつくんだってばぁ!」

「はるな、お前はすぐに顔に出やすいから気をつけろ」

「えー?!深海さん、あたしが悪いっての?!セクハラしてくる客が悪い!」

「お客様は神様です」

「やっぱあんたむかつくわ。店長降格すればいいのに」

深海のいないところでは深海が会社から評価されていない事にぐちぐち文句を言っていたくせに、本人の前では素直になれずに憎まれ口を叩く。はるならしくて、なんだか可愛いなって思った。
お酒の強いはるなはよく飲み、よく喋り、深海に絡む。
なんだかんだ言って、仕事以外で深海に会えて楽しそうではあるので良かった。

高橋もその見た目通り強い酒を水でも飲むがごとく何杯も飲み、これまたお酒の強い美優も負けじと飲んでいた。どうして周りはこんなにお酒の強い人たちばかりなのだろう。

光もお酒が入り、元々よく笑う人だったけど、にこにこしながら皆を見守っていた。

「なんかこーゆーのいいね」

お店ではない、仕事でもない、プライベートの皆の姿を見て、自然にそんな事が口から出た。

「こーゆーの?」

光が首を傾げて、聞き返す。

「うん。何か仕事じゃなくて、皆でゆるーく飲むのってなんかいいなぁって思って。
やっぱり仕事だと緊張感があるし、飲んでも酔ってはいけないって気持ちがあるからお酒を飲んでも100パーセント楽しめないじゃない?」

「本当にお前らの仕事は大変だなぁって俺も思うよ」