【完】さつきあめ


そんな中でも美優やはるなとは相変わらず仲が良く、時間が合えば一緒に飲みに行っていたが、綾乃は決してそこに姿を現さなくなった。
まだ、意図的にわたしたちを避けているようにさえ感じた。

そんなクリスマス前、わたしの引っ越しが決まった。

「しかしぼろいなぁー、マジでこんなところ住めたもんじゃないわ…」

引っ越しの手伝いに来ていたはるながわたしの住んでいたアパートを、汚らわしいものでも見つめるような目で見ていて、少し笑えた。
はるなもわたしが来るまで、シーズンズではナンバー1だった。最初の頃は苦手だったけど、今や何でも言い合える友人の1人になった。

わたしがナンバー1になるのは憎らしいが、少しだけ嬉しかったと言った。
深海のために頑張っていたはるなの事だ。
わたしや綾乃がシーズンズの売り上げを伸ばせば、それだけ店長である深海が評価される。
彼女にはなりたいけど、それよりも深海の評価が上がる方がずっと嬉しいと言った。
光の全てを手に入れたいわたしの傲慢な愛とは違う、真っ直ぐで純粋な愛情がまた切なくさせた。

「あんた本当にキャバ嬢?!
こんなセキュリティーもないぼろアパートに今まで住んでたなんて本当に信じられない!
わたしたちの仕事は常に危険と隣り合わせなのよ?!」

「だから、今引っ越すんじゃん。はるなちゃんうるさいなぁ」

「はぁ?!すっごく忙しいのに手伝いにきてやってんのに!」

憎まれ口を叩くのは、素直じゃない彼女らしい愛情表現のしるし。
いつかそんな不器用なはるなの想いが深海に届けばいいなって思った。

「まぁまぁ、はるなもさくらも口だけじゃなくて手を動かしてぇ~!!
って、そこで死んでる人もね!」

美優も勿論手伝いに来てくれて、わたしのベッドで死んでるように寝転がっているのは光だった。何でも昨日、朝方までお世話になってるお客さんに付き合わされたらしく疲れているらしい。