人は欲張りになる。
初めは感動するほど嬉しかったことさえ、それに慣れてしまえば当たり前になって、もっともっと欲しくなる。
この世界はそういった人の欲望がよく見えやすい場所だった。

「さくらちゃん、これ」

「え?!」

桜井から突然渡されたプレゼントは某有名ブランドのバックだった。
…ちなみにわたしはブランドにはあまり興味がない。

「プレゼントだよ!さくらちゃんに似合うと思って」

「え…でもこんな高価なもの…いただけません…!」

「ほんっとさくらちゃんは真面目だなぁ~…
俺もキャバ嬢の女の子にプレゼントなんて渡すの初めてなんだから、すっげーぇ女の子が欲しがるもの迷ったよ…だから受け取ってほしい…」

「でも、でも、毎日お店に来てくれて…それだけであたしは十分なのに…」

「さくらちゃんがどうしたら喜ぶのか、俺全然わかんねぇなぁ~…」

あれからも毎日来てくれ、惜しみなくお金を使ってくれる。
それには本当に感謝しているし、わたしは桜井がとても好きだった。
けれどそれと同時に怖くなる時がある。
いつか綾乃の言っていた通り…。
わたしはこの人の人生を少しでも狂わせてしまっているのかもしれない。お金を使えば使う程、わたしの成績は上がっていく。
その対価として、桜井はわたしには何も求めてこない。

使っても使いきれないお金を自分の大切な物に使ってるだけ。と桜井は言ったけれど、結婚して、子供も奥さんもいる桜井にとって、大切な物がわたしであって果たしていいのだろうか。いいはずがない。
家庭は破綻していると言っていた。普通の幸せを掴めそうな彼に、一体何が足りないというのだろう。何を満たすためにここに飲みに来ているのだろう。
それはわたしや光が普通の幸せを望むように、桜井にとっても望む幸せがあったのではないだろうか。