風に流される煙草の煙と灰のかけら。
少し俯き加減の瞳。
この人の言葉を真に受けたりなんか、もうしない。今日明日には変わってるかもしれない不確かな感情に振り回されたりしたくない。
風の音のせいにして、わざと聞こえないふりをして、顔を逸らした。

「光は、この仕事が好き?」

「好きとか嫌いとかでこの仕事やってねぇからなぁ…」

その返事は意外だった。
今までこんな話はしたことはなかったけれど、光はこの仕事が好きでやっているんだと思っていた。
いつかレイが言っていた。レイは夜の光より、昼の光の方が好きって。
わたしは夜の光しか知らない。
高級な服で自分を着飾って、女の子と笑い合う、そんな光の一部しか知らない。

「光って大学出てるんだもんねぇ…」

「えぇ?!よく知ってるね!さすが俺のファン!」

「ファンって…。前にレイさんに聞いたよ!」

「俺こう見えても昔は頭良かったんだ」

「会社に就職せずにずっとこの仕事をやってるの?」

「うん。ずっとこの仕事だな~…社長って肩書きは持ってても、結局は夜の仕事だから世間の目は冷たいよね」

「そうなんだぁ…光はこの仕事が好きでやってるのかと思ってた。女の子と沢山知り合えるし?」

「逆に女の裏の顔ばっかり見てうんざりしてるってのもあるよ。
普通ってのにすごい憧れてる、今は、普通に朝起きてさ、満員電車に揺られてうんざりしながら会社に行って、残業しながらも疲れて家に帰って、帰ったら奥さんがいて、子供もいてそんな普通に憧れちまうな」

「それってすごく普通だね」

光がそんなどこにでもありふれていて、どこにでも転がってそうな幸せを求めているなんて思いもしなかった。

「普通が1番幸せだよね。実は…」

「ほんと、そうかも…」

わたしがここにいる意味をもう一度考え直した。
光とこんな風に出会うんじゃなくて、普通に出会っていて、普通に恋愛して、普通に結婚して、普通に毎日を過ごしたらどんなに幸せだったろう。
普通が普通じゃない世界にいるから、なおのことそう思う。
でも、この世界に来なければ、わたしと光は出会うことはなかったろう。