【完】さつきあめ

光がベランダの鉄格子に腕をおろし、煙草を吸いながら空を仰いでいた。
暗くてその横顔はよくは見えなかったけれど、何かを思い詰めているようにも見えた。

わたしが起きた気配に気づくわけもなく、ただ一点を見つめている。

「おはよ…」

そっとベランダに行くと、光はハッとし、すぐにこちらへ笑顔を向ける。空はまだ漆黒に染まっていて、ベランダからは色とりどりに光るライトが至る所で点滅していた。消えては浮かぶの繰り返し。
わたしは昔から、こういう景色が好きだった。
1つの灯りごとに誰かの人生があって、自分がこの世界でひとりぼっちではないと感じれるからだ。

「よぉ~く眠ってたよ」

「何かごめんなさい…。てか起こしてくれれば良かったのに…」

「いやいやよく眠ってたから可哀そうだったしな。なーんて、俺が自分の家に夕陽を連れ込みたかった言い訳かな?」

「またまた…」

突き放すくせに、すぐに期待させるような事を言う。
その全てを鵜呑みにしてしまったら自分の気持ちが持たないから、光の言葉は聞き流すことにする。

「綺麗だね」

「うん。夕陽もこうやって夜の景色眺めるの好きって言ってたよな」

「うん。なんかこうやって沢山の灯りがあるとね、自分がひとりぼっちじゃないって気持ちになって、なんか寂しくないんだ」

「俺は逆かも」

「え?」

「こうやって暗い夜に、灯りが沢山灯ってるの見たら、寂しさがこみあげてくるよ」

「そういうものかなぁ…」

この暗い夜を何度1人で乗り越えてきたのだろう。
いつも明るいあなたがたまに垣間見せる深い孤独が、すべてこの夜に詰め込まれているような気がして。
光の隣に並んで、街のネオンを眺めながら心の中で言った。
今はひとりぼっちなんかじゃないよ。隣にわたしがいるよ、と、
あの頃、言葉に出さなければ伝わらない想いの欠片たちは沢山あった。それなのにちゃんと伝えられなくて、それでも明日も一緒にいられるなんてどうして思えたのだろうか。