【完】さつきあめ

「さくらちゃん、飲もう」

今日も桜井はお店に来てくれて、高級ボトルをおろしていく。
光が好きなのに、この人に対してお客さんとただの男の人との境界線が曖昧になっていく。
どこの指名席に行くよりも、彼の指名の席が1番嬉しかったのも事実で、少しの事で揺らぐ自分の気持ちが信じられなかった。

「アルマンドでもいれる?何がいい?」

「あの、桜井さん!毎日お店に来てくれて、とっても嬉しいんですけど、大丈夫ですか?!」

「お金?お金ならいくらでもあるから大丈夫だよ。俺は君の喜ぶ姿が見たいんだ」

「お金の事ももちろんそうですけど…家族のこととか…」

家族、という言葉を出したら桜井の表情が一瞬曇った。

「まぁ、俺なんていてもいなくても同じじゃない?
子供ともずっと話もしてないし、奥さんも奥さんで俺は金を運んできてくれるATMとしか思ってないだろ。
家にいても居場所なんてないし、さくらちゃんといる時が1番安心するなぁー」

「そんな事…だって家族じゃないですか」

「うちはもう破綻してるから」

乾いた笑いで、シャンパンをグラスに注ぐ。
こんなに優しくて、すべてを手にしていても、人は心のどこかに闇を抱えて生きている。私たちの仕事はそんな人の心の寂しさにつけこんでお金を奪い取る事だ、と誰かが言っていたけれど。
彼をお客さんとしてではなく、男として意識してしまう自分は最低だ。
けれど心のどこかで、綾乃に勝つにはこの人の力が必要だと思っている自分もいる。
両極端な事を考えている自分の心が揺れる。