「この仕事は初めて?」

気怠い雰囲気の男は黒く、長い前髪をかきあげて、わたしと目の前の履歴書を交互に見やる。
眼鏡の奥に隠された一重の目元には優しさは少しも感じられず、取り付けられた冷房の音だけがやたらと空しく響く部屋の中には、やたらと派手な装飾品が飾られている。

何も意味を持たない空間。

「はい…」

それでも緊張していたわたしは返事をするのが精いっぱいで、自分の背筋をすーっと冷たい汗がつたうのを感じていた。

中に着ていたキャミソールが汗で背中に張り付いて、不快な気持ちでいっぱいになる。

「いつからこれますか?」

さっきからくすりとも笑わないこの男は、最初に挨拶と自分の名を深海とだけ名乗り、採用の有無さえ言わずにこの言葉を投げつけた。

こんなものなのか、と思う。

「来週からならいつでも大丈夫です」

「じゃあ、月曜日。
20時までにお店に入ってもらえますか?
髪のセットは他でしても構わないけれど、うちのグループの専属を使うなら1回ごとに1000円給料からひかれます。
ドレスなんかは店に何着かあるか自由に使ってもいいから。
後は小さなポーチとハンカチを何枚か、ヒールの靴は自分で用意できるよね?」

深海は一気に事務的な説明をすると、目だけでじいっとわたしの顔を見つめた。

愛想のかけらもない男だ。