【完】さつきあめ

「……!!」

「見るなって言っただろ…」

そう、見なければ良かったこと。
力なく落ちていくわたしの体を支えているのは、朝日で、自分の身を隠すように朝日の胸の中で小さくうずくまった。

朝日の肩越しから見えた光景。
光と綾乃が並んで歩いていた。 光はわたしと朝日の存在にすぐに気が付いた。
けれど、綾乃の肩を掴んで、違う方向へ歩いていった。
VIPルームの時のように助けにこようともしなかったし、光はわたしじゃなくて、綾乃を選んだ。あんなにばっちり目が合ったのに、光はわたしを見ようともしなかった。

「なんで…変なやつ…あんた…」

「何がだよ」

「いまのわざとでしょ、わざとあたしにキスしたでしょ?
光と綾乃が一緒なの見せないように。
なんなの、あんた…。自分勝手だし、強引で、嫌なことばっかするくせにあたしの1番見たくない物から隠してくれた…」

「そんなつもりはねぇーな。ただお前にキスをしたくなっただけ」


「馬鹿じゃないの…」

「なぁ、ほんと一杯酒に付き合ってくんねぇ?
傷ついてる女の隙に入って何かしようとするほど女にも困っちゃいねぇし」

「なにそれ…馬鹿みたい…」

もうどうなってもいいや、と自棄になってついていった場所は、大きなホテルの最上階の個室のバーのようになっている場所だった。
今にして個室についてくるなんて危険な事はわかってはいるんだけど、VIP待遇で通されたその最上階の部屋から見えた景色は都内を一望出来てて、その人工的な光の綺麗さに思わず感激してしまった。