【完】さつきあめ

朝日は、光のようにスーツは滅多に着ない。
会長、つまりオーナーであるがゆえに自由に自分の好きなところに行って、好きな服を着て、好きなアクセサリーを身に着ける。自由すぎる存在だ。
それに比べて、光はいつも身なりをきちんとしていて、お店に行ったり、事務所に行ったり、時には女の子のお客さんを接待したり、この人とはまるで正反対で、不自由な存在なのだ。
朝日は薄手のジャケットから伸びる腕で、強引にわたしを抱きしめた。

「!!!」

ここは夜の街のど真ん中。
誰が見てるかわかったもんじゃない。
それでもこの人はいつも強引で、人の気持ちなんてお構いなしの行動を取ったりするんだ。

まるで光と正反対の存在、その身なりも、生き様も、包み込む匂いさえも、けれど体温の温かさだけは似ているなんて酷な話だ。

「ちょっとーーーー!!!離せーーー!!!やめろーーー!!ちかんーーー!!!」

「何で泣いてた?」

騒がしかった声から、少し落ち着いた声のトーンになる。
甘いムスクの匂いで頭がくらくらする。

「お前コンタクトなんかつけてねぇだろ」

「何でよ…」

何で…そんな気づいても欲しくないことばかり気づくの?

「離して」


「嫌だね。理由を言うまで離さない」

腕の力を弱めるつもりはないようだ。
こんな腕さえ解けない自分が惨めで情けなくて、また涙が出そうだ。
でもこいつの胸の中にうずくまっていたら、涙さえ隠してくれるだろう。
持っている熱の熱さが同じだったから、あんな事言うなんて、どうかしていた。