【完】さつきあめ

ふらふらとネオン街を歩く女。ショーウィンドウに映った姿はキャバ嬢そのものだ。何でここに来てしまったの、何のためにわたしは……。

ぼんやりと立ち止まって鏡に映る自分を見つめていると、強く肩が掴まれた。
肩の上に残る熱は、さっき光に掴まれた手の熱ととても似ていて、まだ光が追いかけてきてくれてるかもしれないと期待してる自分に失笑してしまう。

でも、振り返った先には、１番会いたくない人がいた。

「…宮沢さん…」

光とは似ても似つかわしくないこの男と光を間違えてしまうなんて

「やっぱりさくらじゃーん！」

この人の軽薄な笑い方が嫌い。
自分以外の人間を見下しているような、そんなオーラを持つこの人が怖い。
けれど、この力強く人を見つめるとことか、持っている熱の熱さがふとした瞬間が、光に似てるなんてやっぱりわたしはどうかしてる。

「なに、泣いてんの？」

泣いてんの？と聞いてきたくせに、この男は心底嬉しそうだ。
人が不幸そうにしてるのを、面白くてたまらないって顔してる。

「泣いてませんけど。コンタクトが合わなくて目が痛いだけです」

コンタクトなんかつけてないけど、朝日に泣いてるなんて思われるのが嫌で、大げさに目を擦る。
ふーん、とつまらなさそうに言った後、携帯を片手でいじりながら、無視してその場を去ろうとすると、片方の空いてる手で行く手を阻む。
右に行けば、右へ、左へ行けば左へ、ニヤニヤと笑う姿は少し無邪気で子供のように見える。