【完】さつきあめ

「あ……」

強く振り払った瞬間
わたしへと真っすぐに向けられた視線は、自分の手のひらに移って
いつか見た光のように、傷ついた顔をした。

「ごめん…俺…夕陽に何かしたかな?」

誰にでも見せる笑顔なんか大嫌い。でも、光にこんな顔をさせたかったわけじゃなくて。

「…光は何もしてない…。 光はレイさんや綾乃ちゃんに優しくしてればいいじゃない…あたしの事はもう放っておいて!」

自分でも子供じみていたと思う。
傷つけたくないのに、好きな人だから、大切にしたかっただけなのに、口をついて出る言葉と言えば、こんな事ばかりで。

「綾乃?」

「光、綾乃ちゃんと付き合ってるんでしょう…?
それなのに、レイさんやあたしに優しくするのはずるいよ…。それは仕事だからなの?そうだったとしたら、それってすごく残酷なことだよね…」

光の顔から表情が消える。
でも口から出てくる言葉は止まらない。

「綾乃とは…夕陽が思っているような関係じゃない」

じゃあ何で昔から付き合ってるとか、高橋が持ってたあんな親密そうな写真とか…。言いたい事は沢山あったけれど、これ以上は自分が傷つきそうで言えなかった。

「あたし…光が好きなんだよ……。
諦める方法なんてわかんないんだから…綾乃ちゃんと付き合ってるなら付き合ってるってはっきり言ってほしい…。
綾乃ちゃんはあたしには光を諦めてほしいって言われたんだよ…。
光も綾乃ちゃんも大好きだから、こんなの辛いよ…」

力なくしゃがみこんで、泣くのをずっとこらえていた。
泣いてしまったら、優しい光を引き止めれるかも、なんてずるい考えを持ってしまう自分が嫌だったから
どこまでも、どこまでもエゴイストなわたしは、光から綾乃と付き合ってないって言葉と、わたしのことが好きだ、なんて自分に都合の良い言葉以外を拒否していた。