【完】さつきあめ

その時、VIPの扉が開き、中から綾乃が出てきた。
出てきた瞬間に、ホールを歩く綾乃の姿を見て、背中がぞくりとした。

綾乃、あんな人だった…?

漆黒のワンピースから伸びる白い長く細い足、品のある歩き方。
赤いリップを光らせて、口角を上げながら背筋を伸ばして歩く姿は上品そのもので、見るものの目を奪う。
綺麗なことはずっと知っていた。 でも少し冷たく見えていた。
しかし今の綾乃は自分に似合う色のワンピースに身を包み、風を切るたびに揺れる黒い髪、完璧にほどこされたメイクをして、何よりも内側から自信というオーラが満ち溢れていた。

「あぁ、あれは綾乃ちゃんか、少しびっくりしたな」

「小笠原さんは双葉に行ってるから、昔の綾乃ちゃんも知ってるんですよね?」

「うんうん、綾乃ちゃんは昔はすごい子だったよね。
シーズンズに来てからずっとマイペースにやっていたようだけど、何か昔の綾乃ちゃんに戻ったみたいだなぁ。ううん、昔よりずっと綺麗かな」

「ほんと…綺麗ですよね…」

当たり前のことだけど、小笠原の言葉を素直に受け取れない。

「どうしたの?さくらちゃん?」

「あ、何かいま綾乃ちゃんとあんまり関係が良くなくて…喧嘩とかしてるわけじゃないんですけど」

「君と綾乃ちゃんは仲良かったよね?僕の席にヘルプで来た時もあったし、あの時の綾乃ちゃんは君がとても好きで、応援してるって言ってたけれど」

「あの、その、小笠原さんに言うべきことではないんですけど…
あたしダメだなぁ、小笠原さんの前では弱音言っちゃいたくなる。
確かに綾乃ちゃんとはお店に入った時からすごく良くしてもらっていて、優しくて大好きなんですけど…今はなんかはっきり言っちゃえばナンバー1を争ってるって感じです」

小笠原は少し眉をひそめた。

「あ、違うんです…!
あたしみたいなのが綾乃ちゃんと張り合おうって言うのがはたから見たらおかしくて笑っちゃいますよね?!」