10月の残り1週間、レイは結局出勤してこなかった。
それでも1週間の穴をうめることなく、10月はレイがナンバー1だった。わたしはナンバー2で、はるながナンバー3。
11月に入って、深海からレイが双葉に移籍したと聞いた。
ショックだった。結局勝ち逃げして、系列店に行った。けれどそれよりショックだったのは、あの日病室でレイの本音を少し見せてくれたこと。これからは良いライバルとして一緒のお店で働けると思っていた矢先の突然の移籍だった。

そういえば、さくらに言づけがあって、もうあんなことはしない、だって。と深海から言われた。
あんなことと言うのは枕営業のことだろうか。
同じ街に生きてるし、狭い繁華街だし、いつの日か偶然出会うことがあるだろう。
その時、わたしたちは果たして友達になれるのだろうか。


「レイもいなくなったし、さくらもめっちゃ調子いいし、今月はナンバー1になっちゃうかもねー!」

待機で美優がにんまり笑いながら言う。

「あら、あたしがいるのもお忘れなく」

隣でベーっとはるなが舌を出す。

そこにやってきたのは、綾乃だった。 綾乃はわたしたち3人から少し離れたところへ座り、ポーチから煙草を取り出し、静かに火をつける。
長い黒髪も、クールだけど印象の強い目元も、均等のとれた体も、改めて見ればここでいつもナンバー3程度でくすぶってるのはおかしな女性だったんだ。
レイと綾乃がやり合った日から、わたしと綾乃の間に明らかな距離が出来た。
何か言われたり、意地悪をされたり、なんてことではない。それはもっと冷たいものだった。
ふたりでいる空間でも何となくピリピリとした空気が流れる。
そんなわたしたちを見て、美優やはるなは何とかしようとするのだが、それが余計にこじらせた。