深海に話を通じない。
少し苛立ちながら、拳を握りしめる手に力が入る。
もしも綾乃と光が付き合っていたなら、光の行動や言葉に心を揺らしている自分が恥ずかしいし、惨めだ。
光がからかってわたしで遊んで、それを影で綾乃と笑いながら楽しんでたら、と思うとぞっとする。

「さくらは結局自分のことばっかりなんだな」

「え?」

深海の言葉に顔をあげる。
目も、合わせてくれない。けれど深海の言った言葉に鼓動が強く脈を打つ。
‘自分のことばかり’

「社長が何も言わないのも、綾乃が何も言わないのも
もしもさくらを守るためだったらどう思う?」

「守る?」


「いや、これはただの俺の想像の話だから。
さくらにだって言いたくたって言えないことのひとつやふたつあるだろ?
それを何でも知りたいと思うことや、教えてくれないからつまんない気持ちになるのなんて傲慢だよ」

「傲慢…?」

「俺から言えることは、社長と綾乃はさくらが思っているような関係じゃないよ」

深海はなおもはっきりとした答えを教えてはくれなかった。
深海の言う通りだったのだろう。
わたしは自分のことばかりで、傲慢なのだろう、と。
好きになった人のことをすべて知りたくなったり、友達が自分を騙してるのではないかと疑ってみたり、2人の関係の真実が知りたいなんて言って。
本当にわたしの知りたい真実は、2人が付き合っていない真実だった。
2人が付き合ってる真実は知りたくないくせに、自分の都合の良い真実は知りたいなんて、わたしは本当に傲慢で自分のことばかりの嫌な女だ。
いや、あの場所に立って、この仕事をしているわたしは既に、自分が大嫌いだった傲慢で自分のことばかりの嫌な女だったのかもしれない。