【完】さつきあめ

「この頃全然らしくないわよ…」

グロスを引き終わったはるなが、真っ直ぐな目でわたしを見てきた。

「え?」

「1回の指名変えくらい何よ。
近頃のさくら、おかしいわよ。レイのことばっかり考えて接客してる感じする。
あたしたちは色々な想いがあるけれど、お客さんのために接客すべきじゃないかしら」

はるなの言葉にまた胸がズキンと痛む。
レイのことばかり気にして、レイの売り上げと自分の売り上げを引き合いにして比べて
光のことも考えて、自分が何のために仕事をしているのかも見失って、朝日にその気持ちをつけこまれて、全部がぐちゃぐちゃだった。

その日、レイの太客である山岡はいつものようにボトルを卸さなかったし、レイもいつもより静かだった。お店の様子がおかしいとも感じていたけれど、そんな事さえ頭に入ってこなかった。

レイに負けたくない気持ちの焦り、光の彼女について、そんな事ばかり考えて、もうこの場所にいたくないとさえ考えた。

高橋でさえ、最近はレイに掛かり切りという感じであんまり話さなくなっていた。売り上げ沢山ある子の方が大切ってことね、と一人で孤独を感じていた。

「さくらー…」

営業終了後、珍しく深海に呼び止められた。

「これから暇か?」

「アフターは入ってませんけど」

「ちょっと飲みにいかないか?」

「あ、はい…別にいいですけど…」

はるなに悪いかな、と思ったけれど、深海からの珍しい誘いに二つ返事でオーケーを出した。
深海はキャストに手を出すタイプの黒服でもなかったし、女の子と個人的に絡む姿もあんまり見ない。はるなも綾乃も美優も皆アフターだったし、軽い気持ちで深海のよく行くというバーに連れて行かれた。