【完】さつきあめ

気の強い眼差しに変わったレイは、ポーチからファンデーションとグロスを取り出し、化粧を少しだけなおすと、大きく音を立てて更衣室を出て行った。

わたしの中に孤独があったように、彼女の中にもまた孤独があった。

更衣室で着替えてから、ホールに出るとレイのお客さんは今日も沢山来ていて、忙しそうに動いている。そこでまたひとつショックな出来事が重なる。

「金沢さんのことなら別にショック受ける必要はないわよ」

化粧室で一緒になったはるながピンクのグロスを引きながらわたしに言った。

「いやまぁ…もともとはるなちゃんのお客さんだったわけだし」

「あたしを何回か指名する前は、美優を指名してたこともあったし、何人指名変わってるんだか、そういう人よ金沢さんって」

金沢さんはちょっと困ったお客さんだった。
悪い人でもないし、金払いも悪くはない。一応小さな会社ではあるが社長という肩書だってある。はるなからわたしへ指名変えをした時も「よかった…」とはるなが胸をなでおろしたのも覚えている。

一言で言えばとても面倒くさい人だった。

席へつけばどんな無理な体制でもお触りを常にしかけてくる。
ラインでもホテルへ行きたい、やら、ストレートに投げかけてくる。しつこいなぁと思いながらも、そこまで毛嫌いをしていたわけでもないし、軽くあしらってきた。
けれどその金沢さんが今日お店に来て、レイを指名していた。要するに指名変えされたわけだ。
指名変えされること自体にそこまでダメージを受けたわけではない。レイへ指名変えされたことが焦る気持ちを更に加速させていく。