【完】さつきあめ

「レイさんは営業もすごい努力家なんですよ」

「シャインの系列で一人指名をしてる女の子もいるし、ちょっと彼女とは合わないと思ったから指名はしなかったんだけどね」

シャインの系列もこの辺りでは七色グループと同じくらい大きい。そこにも小笠原の指名の女の子がいるのか、なんてぼんやり思いながら、レイとは合わなくて良かったなんてちょっぴりずるい考えを持ってしまった。 小笠原がレイへ指名変えなんてしてしまえば、それこそわたしは立ち上がることが出来なくなりそうだ。

同じ時間にお店に入ったから、自動的に更衣室で顔を合わせるのも一緒になりそうだ。嫌味のひとつやふたつも言われるもんかとびくびくしながら更衣室へ入る。
売り上げも指名も同伴の数もなにひとつ、彼女には勝てていない。

「おはようございます…」

そおっと更衣室の扉に手をかけ、小さな声で挨拶をする。
ホールの賑やかさとは打って変わり、しんとした更衣室内。
ピンクのワンピースを着て、更衣室の中にある大きな姿見の前に小さく縮こまるように座っていたレイは、携帯を片手に何を言うでもなくぼんやりとしていた。
わたしを驚かせたのはそんなレイの姿ではなく、いつも強気な彼女の瞳にうっすらと涙が浮かんでいたからだった。

わたしが入ってきたのに気づいて、彼女は勢いよく立ち上がり、後ろ姿を見せた。

「レイさん…大丈夫ですか?」

持っていたハンカチを彼女へ差し出すと、彼女は勢いよくそれを手で振り払い、こちらを睨んだ。それはもういつも通りのレイだった。

「余計なお世話っ!」

激しく怒ったり、人を見下したようにあざ笑ったりする彼女は何度も見たことがあったのだけれど、あんな風にぼんやりと涙を流す姿は初めて見た。