「へー、あの女と続いてたんだ。俺ぁ、ああいうのタイプじゃねーけど」

朝日はつまんなさそうに言った。

「あたし、同伴ありますから!!」

いたたまれない気持ちになって、今すぐその場から消えたくなって、逃げ去るようにそう言い残し、走り出した。
涙があふれてこぼれそうだった。でもそれをぐっとこらえた。いつか高橋とした約束を、わたしは忠実にもこの日まで守り続けてきた。
辛かった日も、悲しかった日も、そんな弱い自分にだけは負けたくなかったから。
けれど走り出した瞬間に涙はぽたり、またぽたりと、とめどなく溢れてきた。

「さくらちゃん、美味しくないかい?」

言われてはっとした。
目の前には困り顔の小笠原がいて、お店の窓に映る自分は小難しい顔をしてフォークの先を見ていた。
仕事中!そう頭を切り替えて、笑顔を作る。…作りたくない時も笑顔を作らなきゃいけないなんてある意味悲しい仕事だなって内心思いながら。

「すっごく美味しいです!」

小笠原の誘ってくれたイタリアンは美味しいはずだった。でもいまは目の前の何を見ても味がしない気がする。
小エビのサラダが運ばれてきて、それを小笠原は器用に動く出て取り分けてくれた。この人はいつもそう。同伴していたってお見せにいたって、わたしよりずっと周りの空気を読んで、その場で1番正しい判断をし、行動するような人。仕事もきっとこんな風に抜け目なく、完璧にこなすのだろう。それじゃあ、この人が本当に肩の力が抜ける場所ってあるのだろうか。