いきなり真剣な目をして、そんな事を言われたら、困ってしまう。
光は昨日のわたしと朝日のキスをはっきりと見た。けれど少しも感情を揺らさなかった。それがこの人の気持ちなんだろうけど。
光はそっとわたしの体を引き寄せて、優しく髪を撫でた。
それは朝日の強引さとは正反対で。

「昨日はなんかごめん。
深海からあの人が夕陽を指名してVIPルームに入ったって連絡があったから、あわててシーズンズに行ったんだよ」

それって…。
光の曖昧な言葉はいつも困惑させるんだ。
嬉しくなったり、悲しくなったり、本当の光の気持ちは一体どこにあるのだろう。
知れば知るほどわからなくなって、遠く感じてしまう。

「そしたら、いきなりあんなラブシーンだし」

撫でていた手が止まる。
もう一度じぃっとわたしの顔を見る。

「あ、あれは会長がいきなり…。ファーストキスだったのに…」

「え?!」

言ってしまった後に後悔した。
キスもした事がない女なんて、光に知られたくなかった。
この人の前では純粋な女でなんかいたくなかった。だってこの人はそういう女を大切にするような類の男じゃないだろうし、あたし、本当は今すぐにでも光に昨日のこと以上のことをしてもらいたいって思っているような女なんだ。

「…夕陽は、あの人のことが好きなの…?」

「好きなわけないじゃない!!
あんな人、だいっきらい!
綾乃たちといる時1回挨拶した程度だし、昨日だっていきなり指名で来たかと思えば高級なボトル開けて、人を物のように扱う人…嫌い…」