‘朝日っていうの’
記憶の中の彼女は桜の花の色と同じような薄紅の頬を緩ませて笑っていた。
‘ずっと孤独な人だったから’
本当に孤独だったのは誰だったのだろうか。
「んぅ~………」
夢なのか現実なのかまだ定かではない意識の中で、ゆっくりと目を開けていく。
ぼんやりとしていた視界が徐々にはっきりとしていく。
真っ白い。ただただ白い天井。
ふかふかのベッドに洗い立ての柔軟剤の匂い。
ここは?はっとして飛び上がるように起き上がると、鈍い痛みが頭を包んだ。
「いったぁ…」
真っ白い天井と壁の部屋には大きなベッドと隅に間接照明がぽつんと置かれていた。
オレンジの柔らかい明りだけに包まれたシンプルな部屋だった。
「ここは…?」
さっきまで朝日が店に来ていて、2本ぶんのシャンパンが入ったアイスペールを一気に飲んで、光が来て、携帯を取られて、そして崩れ落ちていくように記憶を失った。
重苦しい体を無理やり起こし、よろよろとおぼつかない足取りでその部屋の扉を開けた。
姿も見ずに、一瞬でこの家の主がわかってしまった。
もう嗅ぎなれた海の匂いがこの部屋には充満しすぎている。
広めのリビングはキッチンと繋がっていて、ソファーとテーブルとテレビ。黒に統一されているその部屋には余計なものがなくて、ひどく殺風景にも見えた。
テーブルの上には財布と携帯とキーケースが乱雑に置かれ、
黒い皮のソファーにもたれかかるようにスーツのまま光は眠っていた。



