【完】さつきあめ

「やぁっ、」

それは乱暴に
わたしの頭を無理やり掴み、強引に唇を塞がれた。
余りの衝撃に目をつむる。ゆっくりとVIPルームの扉が開き、目を開けるとそこには光が立っていた。

朝日の手は全然緩んではくれない。わたしに深くキスをしたまま、離しはしない。

手が緩み、唇が離された後も、光から顔を隠すように朝日の胸にうずくまって、顔をあげれない。朝日はなおも緩んだ手でわたしの体を包む。

「社長、ここにいたんですね。
佐伯さんが事務所にいらっしゃってますよ」

「邪魔すんなよ、有明ぇ」

「申し訳ありません。急用とのことで」

淡々と話す、光。恐る恐る顔を上げて彼の顔を見る。
笑っている。何事もなかったかのように、わたしと目が合ってもいつもと変わらない笑顔で笑っていた。その光の笑顔が、どうしようもなく悲しかった。
わたしがどこで誰と何をしようが光は傷つかない。悲しまない。悩まない。
光の心を1ミリでも揺らせない自分が惨めだった。
きっとわたしの中に、悲しんでほしい、とか、傷ついてほしい、とか、そんなやましい気持ちがあったのだろう。

朝日はそっとわたしの体を離すと、ジャケットを手に取り、ソファーに置いてあった仕事用のポーチを手に取る。
中からわたしの携帯を取り出した。

「やめて!」

朝日の手から携帯を奪おうとするけれど、空高く掲げているので届かない。
その間もやめてやめてと小さく呟き、それを奪おうとしていると、ヒールに足が取られてその瞬間頭が真っ白になり、記憶はぷつりと途切れた。