【完】さつきあめ


「さくら、指名だ…」

「深海さぁん…もう飲めないよぉ…今日の指名はもう無理…」

「無理でもなんでも酒も飲まなくていいからVIPに指名だ」

VIPに指名?
小笠原だろうか。だるい体を無理やり立ち上がらせて、起き上がる。
けれどもそこには予期せぬ客がいた。


なんで………?
VIPルームに入った瞬間
酔いもだるさも一気に冷めた。

目の前にいる男は軽薄そうな笑いを浮かべ、足を大きく広げ、片手に携帯を持ち、もう片方の手をゆっくりとあげた。

「よう」

何も言えず立ち尽くすわたしの目に、光と同じブランドの腕時計のダイヤが光る。
宮沢朝日が王様のように深いソファーに腰をかけていた。

「え?なんで…」

ほろっと零れ落ちた言葉は素の自分で、そんな戸惑うわたしの腕を力強く引っ張り隣に座らせた。
今でもこの状況が理解出来なかった。
ただ朝日のつけるムスクの甘い香りが鼻の中をむわりと広がる。
これは人を支配する匂いだ。爽やかな光のつける海の匂いがする香水とは真逆で、気分が悪くなる。

わたしの中に入ってくる。
力強い瞳。人を見据えて離さないその瞳がふと光と似ているような気がする。本当にその部分だけ。

「さくら頑張ってるみたいだね」

「はぁ……」

「レイに勝ちたいんだろ?
それは誰のため?」

見透かしたような目が怖くなる。

「…誰のためとかじゃなくて、自分のためです…」

「そうか、有明のためか」