【完】さつきあめ

安川が黒服を呼ぶと、レイと同じボトルを注文した。
普通のサラリーマンの安川が何でもない日にそう容易く出せるボトルではない。
けれど自分を見失っていたわたしは、言葉に出さなくてもそれを望んでいたのだ。


レイはどこからどう見てもばりばりの色恋営業だった。
恋人同士のように寄り添い、お客さんを勘違いさせるのがとても上手だった。
はるなも似ているような営業だったが、全然違う。
自分からお客さんに寄り添い、潤んだ瞳でいつも甘えていた。

無理はさせない。
自分といる時間を楽しんでもらいたい。ずっとそんな考えだった。
けれどそんな風に営業していたら、レイには到底手が届きそうにない。
日に日に自分が変わっていく。
レイを真似た色恋営業は確かに売り上げをのばした。

けれどもその月のナンバー1は、ぶっちぎりでレイだった。


「まだまだだなー…、さすがONE強いわぁ~…」

更衣室で売り上げ表を見ていたレイとばったり会った。
レイはそれに気づくと鼻でふんと笑った。

「1番になるんじゃなかったの?
口だけなんだね、さくらちゃん」

人を小馬鹿にしたような笑い。
レイは入ったその月であっという間にシーズンズのナンバー1になった。
それどころかか、系列の中でもベスト10に入る売り上げを上げていた。
シーズンズの女の子に凄い子がいる、と系列店の女の子の間でも噂になっている、と誰かから聞いた。