【完】さつきあめ

この子、わかってて挑発している。
それはドア越しでも伝わってくるほど。

「この声…レイ…?」

咳をしながらしんどそうに、綾乃は更衣室の扉を開いた。

一発触発という雰囲気だった。
目を伏せたくなるほどの嫉妬と憎悪に満ちた空間。
椅子に座り、余裕で笑うレイはわたしたちが入ってきたのを確認し、目を丸くした。
わたしたち、というよりは彼女の目には1人しか映っていなかったんだろうけど。

「綾乃ちゃん……」

戸惑い。そういっていいのだろうか。隙のない彼女の初めて見せた素の顔のように思えた。

「レイ…なんでここにいるの…?」

その戸惑いを振り払うように、レイは綾乃の目の前に立つ。
見上げるレイの瞳に、体は小さいのに強さを感じた。

「ここのナンバー2の綾乃って綾乃ちゃんだったの。
まさかとは思ってたけど、あんなクソみたいな売り上げを上げているのがまさかあの綾乃ちゃんとは思わないでしょ?
一体光の店で綾乃ちゃんは何やってるの?やる気がないならやめなさいよ」

綾乃にまで挑発的な言葉をかけるレイ。けれどわたしは綾乃とレイが知り合いだとか、綾乃が罵倒されたとか、そんな事じゃなく、次に言った言葉に驚いた。