それでも世界は続いてく

「渋谷〜渋谷〜」


いつもと変わらない声で教えてくれる、電車の中


訳もなく降りたくなる駅の名前だった。


この世の中は「訳」を求められることばかりだが
「訳」など一つもないこともたまーにある。


自ら人混みに身を投げて
集合体の一つになる。



「今日はやけに人が多いなあ...。」ため息混じりにそう呟いた。


東京に出てきてもう少しで一年。
渋谷は東京にいることを確認できる場所だ。



たまに自分が何処にいるのか分からなくなる。
そんな時きっとあるよね?



私がここに来る訳を一つあげるとしたら、


ここに居たら「何か」が起こるかもしれないと
心の何処かで期待している。そうなのだろう。


それはナンパだとかそう言うんじゃなくて...



「あのぉ〜、一人ですか?」



恐る恐る声のする方へ顔だけ方向を変えると


....。


「56歳、無職。ごめんなさい!」


「えっ。」


口が勝手に動いていた。
相手の男性も図星だという顔をしている気がした。
違ったら、ごめんね。





正直言って、この方東京に来てから
世に言う「おじさん」にしか声を掛けられたことがない。



だからといってなんか若い男から声を掛けられてもいい気分がしないし、私の警戒心が人一倍だと思う。



そう、あの日からーーーーーー