別れの曲

 演奏が終わった後、いつもの様な儀式はなかった。そのかわり、店内にいる皆が示し合わせたように、盛大な拍手が沸き起こった。

 
 その中で、「別れの曲」をリクエストした張本人は、恍惚とした表情を浮かべて、彼を見ていた。



 彼はいつものように、軽く右手を挙げて、聴衆に応えた。それでも拍手は鳴りやまなかった。こんなことは初めてだった。「別れの曲」という音楽が持つ何かがそうさせるのか、彼が持つ何かがそうさせるのか、どちらが正しいのかはわからなかった。しかし、彼は、体の奥底から、温かい感情が生まれ、それがじんわりと広がっていくのを感じていた。そして、それが、「喜び」という名前を持った感情であることを知った。