きっとサクラが咲く頃

「毎日ジャンクフードとかコンビニばっかりなんじゃないかって心配してるのよ」

「おばさん……日本のコンビニ、侮れないですよ。
イギリスは本当にどこに行っても料理は外れなんで」
匠馬がお鍋をよそいながら、母さんにニコニコ話しかけた。

「イギリス料理って言うと……フィッシュ&チップス?他に何かあるかな?」
父さんが匠馬に聞いている。

「いや、ホントにそれだけですよ。
みんな基本的に食に拘らないみたいで……でもフラットメイトと手巻き寿司パーティーやったらめちゃめちゃ好評でしたよ」

「そうか、仲良くやってんだね?英語は問題ない?」

「うーん…大体七割ぐらいですね、授業を理解できるのは。
でも何とかついていってますよ。でもやっぱりイギリス英語は聞き取りづらいですけど」


その後も匠馬の口から語られる、向こうでの生活。

毎日夜遅くまで勉強をしていること。
フラットメイトはイギリス人二人とカナダ人、マレーシア人の四人で仲良くやっていること。街の本屋でも日本のマンガを頻繁に目にするということ。

どれも私の知らない……匠馬の生活。
別に決して連絡を取っていたわけじゃない。
たまにくるメール‐それも一行だけの何気ないメールに返信はしていた。

知りたいようで………私は知りたくなかったのかも知れない。私達に立ち塞がる距離を感じたくなかったのかも知れない。