きっとサクラが咲く頃

車はやがて高速道路を降りて、下道に入っていく。
畑の合間に見える新興住宅地‐当時は新しかったけれど、随分時が経ってしまった の合間を縫って、私達の家の前に到着する。
外観も似たり寄ったりの、左右がほぼ対照の家。
右がうちで、左が匠馬の家だ。

「着いたよ」と匠馬を起こして、車のトランクを開けて荷物を下ろす。
そのまま寝ぼけ眼の匠馬を、匠馬の家に押し込むようにして、私も家に帰った。

「ただいま」と玄関を開けてリビングに入ると…もう既に家では宴会の準備をしているらしい。
テーブルセットする父さんに、タン・タンと言う包丁の音がキッチンから響いている。

「おかえり、匠馬君は?」
母さんがキッチンから顔を覗かせて聞く。

「ちゃんと送り届けたよ。多分おばさん達と来るんじゃないかな?」
それだけ言って、私はリビングを出ていこうとする。


「千聡、手伝…」
「ごめん運転疲れた……寝るわごめん………」
母さんの手伝い要求をはねのけて、私は自分の部屋だった場所へ向かう。

今はもう…ただの物置小屋と化した部屋。
机とベッドだけが物悲しそうに置いてあって、まるで脱け殻になったような私の部屋。

何も置いてない机に、匠馬から貰ったチョコレートを丁寧に置いて……そしてダイブするように、ベッドの中へと潜り込んだ。