きっとサクラが咲く頃

駅に着いても、私達は手を握ったまま帰り道を歩いていた。
やがて自販機の所で匠馬は立ち止まった。
そして手を離してジュース‐私がいつも飲んでいた炭酸のジュース を買って、私に渡した。

「どうしたの?そのまんまじゃ帰れないじゃん」


ガードレールにもたれ掛かって…私の顔を心配そうに見ている匠馬。
やっぱり何だか……私の知っている匠馬よりも随分大人びていて、すっかり私はおいていかれた気分になってしまう。

「匠馬はさ…好きな子とか彼女っているの?」

「はぁ?!俺に彼女できたんなら真っ先に情報行ってるだろ。
主婦の情報力、ナメるなよ」

その言葉に、ほんの少しだけ…私はホッとした。


「私さぁ…失恋っていうか……失恋にも値しないことをしたの。
ただバカだった……」

多分私は……ただ優越感に浸っていただけだった。
『カッコいい大人の男性に優しくされる』っていうただそれだけの……。

匠馬は黙って聞いていたが、不意に携帯を取り出した。

「もしもしおばさん?何か千聡がさぁ、友達とケンカして泣いてるから、うちで落ち着かせてから帰らせるから」
それだけ言うと電話を切って、また私の手を引いて歩き出した。