きっとサクラが咲く頃

何本電車を見送っただろう。
気付けば……一時間が経過していた。
でも、帰りたくない。どうしよう。でも帰らなきゃ……。
ぐるぐる考えるなかで‐誰かが頭を叩いた。

「千聡、なにやってんだ?」
顔を上げると、そこに居たのは………

「匠馬………」

匠馬は素知らぬ顔で、私の隣に座る。

「電車来てたのに、何で乗らねぇの?帰ろ」

「帰りたくない、んだよね……」

「バカ言え、次の電車来るぞ。立て」

そのまま匠馬は私の手を引いて、ホームのドアが開く場所まで引っ張っていく。
久しぶりに隣に並ぶ匠馬は…かなり身長が伸びていて、とうに私を追い越しているのに気付いた。
匠馬の手には参考書を持っていて、受験に向けて真剣に取り組んでいることもわかった。

何だかいつも知っていたはずの匠馬が、すごく遠くに感じてしまって‐気付けば涙がポタポタ溢れていた。


匠馬はそれに気付いたみたいだが……黙って私の手を取って、電車に乗りこんだ。そしてそのまま黙って、最寄り駅に着くまで手を握ってくれていた。