オネエが野獣になるときは。



「だから、彼氏にプロポーズされたら私とは離婚すればいいのよ」

「いやいや!彼と結婚するときバツがついてたら、珍しくないどころか不自然極まりないですよ!」

「んもうっ、そんなの学生時代に若気の至りで結婚しちゃったのきゃはっ!とでも言っとけばいいのよ」


社長にこんなこと思うのは失礼なんだけど…この人馬鹿なんじゃないの。

…口が裂けても本人には絶対に言えないけど。


「支倉ちゃんが私と結婚すれば、家族みんな救われる。彼氏とはそのまま付き合い続ければいい。プロポーズされたら離婚もできる」

「…なにが言いたいんですか」

「これ以上好条件な結婚、あるかしら?」


さすがエリート社長とでもいうべきか。

まるでプレゼンかのような話ぶりに、私みたいな凡人が反論する術を持ち合わせているわけもなく。


「…分かりました」


渋々私がサインするのを見て、社長は満足気に微笑む。


「あ、そういえばひとつ言い忘れてたわ」

「…え?」

「別にバツがつくのは珍しくないけど、私に離婚歴があるのは嫌だから…」


久我社長は、席を立ち上がる私の腰を引くと耳元で低く囁いた。



「あなたと彼氏の邪魔、させてもらうわね?」


…新婚生活、早くも前途多難な予感。