「ほら、支倉ちゃん早く書いてよ」


トントン、と人差し指で婚姻届の署名欄を差す久我社長。

なんでこの人はこんなに冷静なわけ?


社内で数回挨拶を交わす程度の仲の女と、わけわかんない理由で結婚させられそうになってるっていうのに!


「いや、あの…社長にうちの都合で迷惑なんてかけられませんし…」

「あら、そんなこと気にしてたの?それなら問題ないわよ。お金を出すのは私の父親だし」


…いや、正直問題はそこじゃない。


「本当にありがたいお話なんですけど、私実は彼氏いるっていうか…」


本題はここ。

私には付き合って3年になる彼氏がいる。

もう子供じゃないし、彼との結婚も意識しないわけなくて


「社長と結婚したら…えっと…」

「なるほど。彼と結婚ができないじゃないか、ってことね?」

「そうです…っ!だから私の立場でこんなこと言うのはおこがましいですけど、今回の結婚の話は…」


こんな政略結婚みたいなこと、この時代に本当にありえないから!

お父さんには悪いけど、この話は無かったことにしてもらおう。



「ふふ。このご時世バツのひとつやふたつ、なぁんにも珍しくないわ」

「ありがとうございます!結婚はやっぱり…って、はい?」


…この人私の話聞いてました?