別れても好きなひと

「私は夫を脳梗塞で亡くしました。亡くなるまでの2年間は全身麻痺で…植物状態に近かったんです。愛していた人なのに…どんどんと夫の介護に疲れて私は夫を施設に預けました。その時に杉崎さんに会ったんです。」
私は知ることが怖いと思った。聞きたくないとも思った。でもそれではいけないと唇を噛み締めた。

「もしかしたら杉崎さんがいなければ私は自分で命を絶っていたかもしれません。それだけ愛する人の現実を受け入れられず自分の心が離れていく事実を変えられず…苦しかったんです。」
「……。」
「杉崎さんとは手も握りあったこともありません。ただ…お互いに支えあっていたんです。私は杉崎さんに好意をもっていましたが杉崎さんは…わかりません。でも奥さまを愛されていることだけはわかります。」
「どうしてですか?」
「どこへ行っても何をしていても何を食べても、いつも杉崎さんが話すのは奥さまやあなたのことでした。私は杉崎さんに好意を持っているのに、杉崎さんは私にあなたたちのことばかり話すんですよ。しかも幸せそうな顔で。」
私はそこで我慢できずに顔を覆い涙した。幸せそうな顔で話をする父の顔が浮かんだから…。