お嬢様は恋を知らない

力が抜けてその場に倒れそうになった私の体を、麗さまはやさしく支えてくれた。

「お嬢様。今回はさすがの私も怒りましたよ」

「ごめん、なさい…」

「お嬢様がご無事で本当に安心しました。連絡もつかないので、使用人総出でお嬢様の捜索にあたっていたのです」

電源、切ったままだった……

「旦那様にきちんと謝罪をするのですよ」

「はい」

麗さまの温もりに包まれて安心したのか、こらえてきた涙が溢れ出した。

そんな私を突き放すことなく、麗さまはやさしく抱きしめてくれた。

「いつまでもお子様ですね」

「うるさい」

「あらあら。こんなことがあってもまだ口答えするのですか?」

「もう、麗さま! 私をからかわないで!」

「……春菜様」

いつも“お嬢様”なのに、名前で呼ぶなんて……

え……!?


「れ、い…さま?」

「面白いお顔ですね。お嬢様」

頬が、熱い。

麗さまに、キスされた……

「旦那様には秘密ですよ?」

悪戯っぽく笑って私の手をとった。

「帰りますよ。お嬢様」

動かない私をみて呆れたように息を吐いた。

「今度は唇をご所望ですか?」

「ち、違う! 別にそんなの望んでない! 今のだって麗さまが勝手に…」

「敬愛の印です」

普段はそんなことしないくせに。
今日は少し変だ。