ポカポカだったはずの手がじんわりと冷めていく。
もうあの温かい手は無いんだ。
そう思うと、涙は一層多く零れた。
「千歩、待てよ」
「やだ……。早くいかないとおばさんがお茶の葉待ってる」
「千歩!」
秋人の手が千歩の手首を半ば強引に捕まえた。
千歩の後ろから秋人の腕が回る。
大きな体が千歩の体をすっぽり包み込んだ。
「……事件が解決したら戻る。だから、帰ってくるなとか言うな」
秋人の優しくて少し寂しそうな声。
彼の吐息が千歩の耳元にかかる。
千歩の気持ちはギューッと締め付けられたみたいに苦しくなった。
秋人の顔を目に焼き付けておきたくて、でも泣き顔は見られたくなかったりして。
振り返って向かい合わせになっても、千歩は顔をなかなか上げられないでいた。