「千歩ちゃん、結婚したら仕事は?」
秋人の父親は息子とよく似た柔和な話し方で尋ねた。
千歩自身もこの質問は絶対に来ると覚悟していた。
それだけ、警察官というのは厳しい職業なのだ。
生半可な気持ちではこの仕事は務まらない。
当然、秋人を支えていく事も。
「私はこれから先ずっと秋君を支えていくって決めました。世の中の平和は秋君に託したので、秋君がホッと息つく場所の平和を私が守っていきます」
「それで本当にいいのかい?」
「女に二言はありません」
千歩はスパッと言い切った。
“一度決めた事は曲げない”精神は父親譲り。
千歩の父親は深々と頭を下げて「秋人君、不束な娘だがよろしく頼む」と秋人に告げた。
「こちらこそ、お義父さん」
いつも“犬山のおじさん”と呼んでいた秋人が千歩たちを本当の家族として扱ってくれる。
その光景に千歩の目頭は熱くなった。
秋人の大きな手を思わずギュッと握ってしまう。
握り返されると心地良い体温が千歩の手先から全身を温めた。
No.5.5 カツ丼と親父のお話(おまけ) Fin.



