「千歩、大丈夫?」
「…………」
麻衣子の気遣いも千歩の耳にはまるで入らない。
『刑事が一人やられたらしい』
その言葉だけが千歩の頭の中をグルグルと駆けまわる。
自分たちは警察官だから、このような事態は日ごろから覚悟しているつもりだった。
秋人と二人で話したことだってある。
その度に覚悟して、大丈夫だと確認し合っていた。
「千歩……千歩っ!」
フリーズしたまま動かなくなってしまった千歩の肩を麻衣子が乱暴に揺さぶった。
そこまでして、千歩の焦点はようやく麻衣子に戻る。
「千歩、行きな」
「え……?」
「今すぐ病院に行きな」
「でも、勤務中……」
「仕事の一つや二つ請け負うわよ。始末書ならいくらでも一緒に書いてあげる」
「でも――…」
麻衣子は躊躇う千歩に「つべこべ言うな!」と一喝して、彼女を無理やり立たせた。
「警察官の代わりはウジャウジャいる。でもね、“犬山 千歩”の代わりはいないんだ!」
麻衣子の言葉が千歩の胸に突き刺さる。
千歩は下唇をギュッと噛みしめて、涙が溢れるのを必死で堪えた。



