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千歩は一日の業務を終えて、更衣室で帰る支度を整える。
「お疲れ様です」
交通部にいる他の警察官たちに声を掛けて廊下に出て、エレベーターを待つ間、ボーっと考え事をしていた。
秋人がNYへ行っている期間、当然バレンタインチョコレートなど渡せるはずもなく、今日が実際には付き合って初めてのバレンタインデーに等しかった。
自宅に帰ってもすれ違いなら渡せないかもしれないと思うと、秋人の為に準備したバレンタインチョコレートを署内まで持ってきてしまった。
忙しさでなかなか空き時間が作れなくて、渡しそびれてしまったチョコレートが鞄の入り口からひょっこり顔をのぞかせている。
「ちょっと寄ってみようかな……」
秋人がまだ署内にいれば会えるかもしれないし、一緒に帰れるなら美味しいディナーでも食べながら渡したい。
千歩はそんな淡い期待を胸に刑事部へ向かった。



